1 :HAM ◆HAM/FeZ/c2:2012/09/03(月) 23:13:34 ID:roT2zndI
少女「……」
男「……」
少女「え、ここ、どこ??」
男「……あん?? なんだ、ここ」
少女「……」
男「……」
少女「あんた、誰」
男「お前こそ誰だよ」
2 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/03(月) 23:20:10 ID:roT2zndI
少女「あれ、私、死んだはずじゃあ」
男「あ、そういやおれも、死んだ気がする」
少女「……」
男「……」
少女「じゃあここ、天国??」
男「んん、地獄ではなさそうだけど」
少女「真っ白だね、この部屋」
男「地獄は真っ黒か赤いイメージだしなあ」
3 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/03(月) 23:25:48 ID:roT2zndI
少女「地獄に行くほど悪いこと、してないし」
男「ああ、おれもだよ」
少女「でも天国というには殺風景すぎるよね」
男「なんの部屋だろう」
少女「ドアも窓もないし」
男「あそこにノブだけあるぞ」
少女「死んだ人が来る部屋かなあ」
男「じゃあ、続々と後からもやってくるのか」
少女「うわ、いやだな」
男「死んだときの姿でってことはねえよな」
少女「やめてやめて!! 気持ち悪い!!」
4 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/03(月) 23:33:01 ID:roT2zndI
男「ちょっと、あのノブ回してくる」
少女「うん」
男「ん……」グイ
少女「どう??」
男「開かない」
少女「ま、そうでしょうね」
男「閉じ込められてんのかなあ」
少女「どうせ死んだんだし、どうでもいいよ」
男「さっぱりしてんなあ」
5 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/03(月) 23:40:32 ID:roT2zndI
男「君、いくつ??」
少女「14」
男「死ぬには若すぎないか」
少女「そっちだって、たいして変わんないじゃん」
男「まあ、そっか」
少女「あんた、いくつ」
男「18」
少女「受験のストレス??」
男「おい、自殺だと決めつけんな」
6 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/03(月) 23:44:40 ID:roT2zndI
少女「違うのか」
男「違うよ、事故だよ事故」
少女「事故かあ、私も一緒」
男「車??」
少女「うん、交差点でね」
男「そっか、痛かった??」
少女「覚えてないよ」
少女「知らないうちにこの部屋に来てた」
男「そっか」
7 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/03(月) 23:51:59 ID:roT2zndI
少女「あんたも車の事故??」
男「いや、学校の屋上から落ちて」
少女「それ自殺じゃん!!」
男「いや、違うんだって、友だちと、その、じゃれあってたらさ」
少女「付き落とされたの!? 殺人じゃん!!」
男「いや、違う違う」
少女「犯人はその友だちじゃん!!」
男「違うって」
8 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/03(月) 23:55:50 ID:roT2zndI
少女「痛かった??」
男「覚えてない」
男「ふわっと落ちてる間に気を失ったんだと思う」
男「あーこれ死ぬわ、って思ってるうちに、この部屋に来てた」
少女「楽に死ねて、良かったんじゃない」
男「んん、不幸中の幸いというか」
少女「あ、それ、まさにその言葉が合うね」
9 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/03(月) 23:59:47 ID:roT2zndI
男「なんだろう、この、死んだはずなのに実体がある違和感」
少女「ね」
少女「夢って感じでもないし」
男「ドッキリ??」
少女「誰がそんなこと仕掛けるのよ」
男「共通の知り合いが……」
少女「いるわけないじゃん」
男「実はおれたちには血のつながりが……」
少女「安いドラマかい」
15 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/04(火) 20:17:41 ID:VUvGM1Dw
男「でも、死んだっぽいのは本当だと思うんだよなあ」
少女「私も」
男「あ、そうだ、君はなんで死んだの?」
少女「だから、交差点で、車が突っ込んできて」
男「余所見でもしてたの?」
少女「私が? 運転手が?」
男「君が」
少女「ああ、いや、余所見って言うか……」
男「ん?」
少女「友だちがさ、危なかったのよ」
16 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/04(火) 20:22:03 ID:VUvGM1Dw
男「友だち?」
少女「そう」
少女「一緒に交差点を歩いてた友だち、ね」
男「ふうん」
少女「で、そいつを突き飛ばして、代わりに私が轢かれたっていうか」
男「自分が犠牲になって友だちを助けたわけか」
少女「ああ、うん、結果的にはそうなんだけど、そんな風には考えてなかったし」
男「美しい友情だな」
少女「ううん、そういう風に言われてもなあ」
少女「無我夢中だっただけだから」
17 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/04(火) 20:28:09 ID:VUvGM1Dw
男「じゃあ間違いなく天国行きだな」
少女「んー」
男「まだ若いのに、良くできた子だ」
少女「もう、その上から目線の言い方、やめてくんない」
少女「あんたもまだ若いでしょうに」
男「『でしょうに』っていう言い方は、若くないな」
少女「うるっさい!!」
男「大人ぶってるのか?」
少女「違う!! お姉ちゃんの影響だっつうの」
男「お姉ちゃんがいんのか」
少女「そうよ、私より何倍も何倍も良くできるお姉ちゃんよ!!」
男「なに怒ってんだよ」
18 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/04(火) 20:37:54 ID:VUvGM1Dw
少女「怒ってなんかない」
男「いつも優秀な姉と比べられたのか」
少女「……」
男「図星か」
少女「わかんないわよ、あんたには」
男「わかるよ」
少女「適当なこと言わないで」
男「おれにも優秀な兄がいたからなあ」
少女「……そう」
19 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/04(火) 20:49:11 ID:VUvGM1Dw
少女「でもまあ、私じゃなくてお姉ちゃんが死んでたら、もっと辛かっただろうし」
男「……」
男「なんで」
少女「代わりに私が死んでたらよかった、みたいに言われたり」
男「やめろって」
少女「聞いたの、あんたじゃん」
男「ん、そうだけどさ」
少女「あんたも、同じこと思ってるんじゃない?」
男「死んだのが兄貴の方じゃなくてよかった、てか」
少女「……うん」
男「はっ」
20 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/04(火) 20:55:09 ID:VUvGM1Dw
男「誰かの代わりに死ぬ、なんてのは死ぬ側の身勝手な妄想だ」
男「そんな現実はないんだよ」
男「死んだのはおれ!! 兄貴に代わりでもなんでもなく」
男「ただただ平凡なおれという人間が死んだだけ!!」
少女「……そうね」
男「君もだよ」
男「姉ちゃんではなく君という人間が死んだんだ」
男「友だちの代わりに、ではなく、君個人が死んだんだ」
少女「……うん」
男「君は、あれだろ、友だちがどう思っているかを気に病んでいるんだろ」
少女「……」
21 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/04(火) 21:02:41 ID:VUvGM1Dw
男「私の代わりに、あの子が死んじゃった、どうしよう」
男「そんな風に友だちが思ってないか、心配してるんだ」
少女「……」
男「優しい子だね、君は」
少女「女の子じゃないの」
男「あん?」
少女「男の子よ、その友だちって」
男「あ、そう、そりゃあ早合点してたな」
22 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/04(火) 21:08:38 ID:VUvGM1Dw
少女「今どう思ってるかな、って、ちょっと不安になる」
男「……わかるよ」
少女「あのねえ、さっきからさあ、なんか人を見下してない?」
少女「私の気持ちがわかるって言うの?」
男「わかるよ」
少女「どうしてよ」
男「おれも、似たような死に方をしてるからだよ」
少女「ん……」
24 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/04(火) 21:14:56 ID:VUvGM1Dw
少女「そ、そう」
男「自分の死のことを、自分のせいだ、なんて重荷に思ってほしくない」
少女「……」
男「だけど、なにも感じていないのも寂しい」
少女「……」
男「そういう、曖昧な感じだろ」
少女「……なんで、わかるの?」
男「だから言ったろ、おれも同じような死に方をしたんだって」
25 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/04(火) 21:27:03 ID:VUvGM1Dw
少女「どんな?」
男「屋上でさ、友だちとじゃれあってたって、言っただろ」
少女「うん」
男「友だちのさ、ハンカチがさ」
少女「ハンカチ?」
男「そう、気に入らなくてさ、取り上げて」
少女「取り上げて? あんたガキじゃないの!?」
男「おっしゃる通り」
少女「友だちのハンカチを気に入らないからって?」
少女「そんなのその人の勝手じゃん!!」
男「おっしゃる通り」
26 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/04(火) 21:33:43 ID:VUvGM1Dw
少女「はあ、ちょっと意味わからない」
男「あの、その友だちってのはさ、女でさ」
少女「ああ」
男「別の男からもらったプレゼントらしくてさ」
少女「はあ」
男「なんつーか、嫉妬って言うか」
少女「その女の人、あんたのなんなのよ」
男「……友だち」
少女「じゃあ、あんたに嫉妬される筋合いはないじゃんか」
男「……おっしゃる通り」
27 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/04(火) 21:40:15 ID:VUvGM1Dw
少女「片思いってわけね」
男「うん」
少女「で、他の男のプレゼントに嫉妬して、取り上げて、それで?」
男「屋上で走り回って、バランス崩して」
少女「ハンカチは?」
男「握りしめたまま、落ちた」
少女「もう、なんていうか、最低な死に方ね」
男「返す言葉もないよ」
少女「その人にしてみたら、ほんと、5割増しで最低ね」
男「……はあ」
28 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/04(火) 21:54:19 ID:VUvGM1Dw
少女「わからないでも、ないけどね」
男「嘘つけよ」
少女「慰めで言ってるんじゃないよ」
少女「私も、そうだったもん」
男「はあ?」
少女「その男の子のこと、好きだったもん」
男「……」
少女「だから、自分の命のことなんか、全然考えてなかったもん」
男「……」
少女「あいつが死んだら嫌だって、そんなことしか、考えてなかったもん」
29 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/04(火) 22:04:34 ID:VUvGM1Dw
少女「付き合ったりとかじゃなかったけど、でも、それでもいいっていうか」
少女「一緒に帰れるだけで、嬉しかったし」
少女「一緒にいられるだけで良かったんだもん」
男「……」
少女「大袈裟じゃなく、あいつじゃなくて、死んだのが私でほんと良かった」
男「……」
男「それって……」
ガチャリ
少女「!!」
男「!!」
31 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 19:29:17 ID:SMJlWAL.
少女「ドアが……開いた?」
男「……」
?「失礼します」
?「御二方、御自分の状況を把握しておられますか?」
少女「……は、はあ」
男「死んだってことくらいは、まあ」
?「ええ、十分です」
少女「あの、ここはなんなんでしょうか」
男「ああ、それ、それを聞きたかった」
32 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 19:34:56 ID:SMJlWAL.
?「ここは、天国と地獄の間です」
少女「はあ」
男「なるほど?」
?「正確には、天界と冥界の間です」
少女「うん?」
男「な、なるほど?」
?「まあ、簡単に言いますと、天界へ行くか冥界へ行くか、その審判の待合室です」
少女「ああ、それが一番わかりやすい」
33 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 19:39:59 ID:SMJlWAL.
男「いつまで待ってりゃあいいの?」
?「ええと、今は待っている人が少ないので、一日もあればどちらも呼ばれると思います」
少女「一日!?」
男「それって遅いんじゃないの?」
?「人死にが多いと、何日も待つ場合もありますので」
少女「はあ」
男「よくわかんねえけど、呼ばれるまで待ってたらいいのか」
?「ええ」
少女「貴方は天使?」
天使「ええ、そういう役割を仰せつかっております」
男「天使ね、実在するとは」
35 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 19:45:33 ID:SMJlWAL.
少女「ここで一日過ごしてたらいいのね」
男「ヒマだなあ」
天使「四方の白い壁は、念じれば現実世界の様子が見られるスクリーンになります」
少女「へえ」
男「すげえ」
天使「それを見て、現世との別れを惜しむのも悪くないかもしれません」
少女「ううん、どうしよ」
天使「見る見ないは自由ですから、お好きになさっていてください」
36 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 19:53:47 ID:SMJlWAL.
バタン
男「なんの話、してたっけ」
少女「もう、いいよ」
男「あ、そうだ、君の友だちの話」
少女「うん、もう、いいの」
男「好きだったんだろ、見ないの? スクリーンで」
少女「……どうしよっかなあ」
男「怖いか」
少女「そりゃあね」
少女「あんただって、そうでしょ」
男「まあね」
37 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 20:01:34 ID:SMJlWAL.
少女「あんたもさ、そのハンカチの持ち主の女の人がさ、重荷に思ってないか心配なんだ」
男「ていうか、おれの場合は完全におれが悪いからなあ」
少女「そうだけど」
男「目の前で自分のハンカチ持ったまま落ちて死んだ同級生に、同情はできないよなあ」
少女「そうだけど、さ」
男「トラウマになってないか、心配」
少女「あはは、そっちか」
38 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 20:38:41 ID:SMJlWAL.
男「おれは、見てみようかな」
少女「……そう」
男「別に、君も見てもいいからな」
少女「……うん」
男「んっと、どうやんのかなあ」
ヴォーン
男「お、出た出た」
少女「……」
39 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 20:45:10 ID:SMJlWAL.
男「……」
『あいつは……まだ……18だぞ!!』
男「兄貴……」
『どうして……どうして……くぅっ』
男「ははは、なんか、申し訳ないな」
『馬鹿野郎……おれより先に死にやがって……』
男「親父……」
『くそっ……くそっ……』
男「……」
40 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 20:51:01 ID:SMJlWAL.
少女「ねえ、辛くなるなら見ない方が……」
男「いい、全部見る」
少女「でも」
男「辛くなってもさ、仕方ねえじゃん」
男「そもそもおれが阿呆な死に方をしたのが悪いんだし」
少女「ん……」
男「反省して、うん、天界でも冥界でも行って、もっと反省する」
41 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 20:57:54 ID:SMJlWAL.
『馬鹿な死に方して……あの子はほんとに……』
男「母ちゃん……」
『なんで……なんでこんな……』
男「母ちゃん、御免」
男「おれが悪いんだよ」
『屋上でふざけあってたって言う、あの子たちが悪いのよ……』
男「違う!! おれが悪いんだ!! あの子は悪くないんだ!!」
男「おれが……」
42 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 21:04:26 ID:SMJlWAL.
少女「……」
ヴォーン
『あの子は、優しい子だった』
少女「お姉ちゃん……」
『私には、ないものを、たくさん……うぅっ』
少女「……」
『早すぎる……早すぎるわよぉっ……』
『本当に……どうしてあの子が……』
少女「ママ……」
43 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 21:13:38 ID:SMJlWAL.
『あの子が事故に遭っているとき……おれは……涼しい部屋で……書類なんか見ていて……』
『あの子の苦しみも知らず……あの子を想ってやれず……』
少女「パパ……」
『もっと……もっと構ってあげれれば良かったっ……』
少女「うっ……うっ……」ポロポロ
『それは、私も同じよ……』
『あの子……ずっと私に遠慮していたもの……』
『もっとお姉ちゃんらしいこと……してあげるんだったわ……』
少女「そんなこと……言わないで……」ポロポロ
44 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 21:19:27 ID:SMJlWAL.
プツン
男「……」
少女「見るの、やめちゃったの?」
男「ああ、ちょっと、精神的に来るものがあるな」
少女「……私も」
男「なんだ? 目が赤いぞ?」
少女「……気のせい」スイッ
45 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 21:24:10 ID:SMJlWAL.
男「泣いたのか」
少女「……」
少女「いいじゃない、別に」
男「悪いなんて、言ってないよ」
男「悲しくて泣けるなら、人間らしい」
少女「人間らしくなかったら、どうなるの?」
男「悲しくても泣かない」
少女「そんな人、いっぱいいるでしょう」
男「じゃあ、えっと、悲しいとき笑う」
少女「それ、ただの変な人じゃん」
46 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 21:36:57 ID:SMJlWAL.
男「悲しいという感情がない」
少女「ああ、それは人間らしくないね」
男「……」
男「……なんの話をしてたんだっけ」
少女「忘れちゃった」
男「悲しいのはどんなとき、って話だっけ」
少女「そんな話、してたかな?」
47 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 21:44:53 ID:SMJlWAL.
男「おれさ、15のときにさ、ばあちゃんが死んで」
少女「うん」
男「病院で、めちゃくちゃ泣いたんだ」
少女「……うん」
男「身近な人が死ぬのって、それが初めてだったから」
少女「……うん」
男「なんか、リミッターが外れたって言うか、ボロボロ涙が勝手に出てさ」
少女「……うん」
48 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 21:49:33 ID:SMJlWAL.
男「でも、落ち着いたら、すごくすっきりしたんだ」
男「ばあちゃんは、高齢だったし、大きな病気とかもしなかったし」
男「天国で幸せに暮らしてね、って素直に思えたんだ」
少女「寿命なの?」
男「うん、まあ、そうかな」
少女「私、おじいちゃんもおばあちゃんも、まだ生きてるの」
男「そっか、羨ましいね」
少女「でもいつか、死んじゃうんだよね」
男「そうだね」
49 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 21:57:28 ID:SMJlWAL.
少女「私ね、お葬式って、行ったことがないの」
男「そう」
少女「どんな感じ?」
男「ん、みんな下向いてて、寂しくて、暗い感じ」
少女「行ったことあるの?」
男「ばあちゃんのとき、一回だけだけどな」
少女「悲しかった?」
男「おれは、病院でひたすら泣いたから、葬式では泣いてないよ」
少女「そっか」
50 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 22:05:35 ID:SMJlWAL.
男「なんか、気になる?」
少女「ん? んっと、私のお葬式って、どうなるのかなあ、とか」
男「ああ、そうか」
男「明日は、おれたちの葬式か」
少女「今日じゃないの?」
男「今日はお通夜かな、たぶんね」
男「宗派にもよるだろうけど」
少女「宗派ってなに?」
男「仏教か、神道か、みたいな」
51 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 22:13:27 ID:SMJlWAL.
少女「仏教はわかるけど、神道ってなに?」
男「えっと、家に神棚か仏壇かある?」
少女「神棚があるよ」
男「じゃあ君んとこは、神道だ」
少女「そうなの?」
男「たぶんね」
男「それ以上の細かいことは、詳しくないけどさ」
少女「ふうん」
52 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 22:24:43 ID:SMJlWAL.
男「今日、お通夜があって、明日は火葬して……」
少女「火葬って……」
男「焼いて、埋めるんだよ」
少女「私たちの身体、焼かれちゃうの?」
男「……そうなるね」
少女「身体、なくなっちゃうの?」
男「……そうだね」
53 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/05(水) 22:30:43 ID:SMJlWAL.
少女「なんか、実感わかないなあ」
男「まあ、まだ実体はあるもんねえ」
少女「お通夜の様子、見てみようかな」
男「悲しくなるよ?」
少女「悲しくて泣くのが、人間らしいって、さっき言ってたじゃん」
男「そうだけど……」
少女「泣いてすっきりするの、私も」
男「そうかい」
57 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 20:38:39 ID:vXX/6iJ2
少女「今何時なんだろうねえ」
男「わっかんねえなあ」
少女「ここに来てからどれくらい経ったんだろうねえ」
男「わっかんねえ」
少女「なんかさあ、こういう映画あったよね」
男「どんな?」
少女「なぜか、見知らぬ部屋に閉じ込められてるってやつ」
男「よくあるよな」
少女「ホラーにもコメディにもあるよねえ」
男「ああ」
58 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 20:45:49 ID:vXX/6iJ2
少女「ああいう人たちって、どうやって時間を知ってたんだっけ」
男「さあ?」
少女「携帯とか、持ってない?」
男「ポケットにはなんも入ってなかった」
少女「そっか」
男「ハンカチも、持ってなかった」
少女「それは、いいでしょ、別に」
男「あいつの」
少女「ああ」
59 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 20:52:35 ID:vXX/6iJ2
男「まだ、現世は明るいみたいだったけれど」
少女「お通夜って、夜だよね、だいたい」
男「まあそうだろうな」
少女「それまで、なにしようかなあ」
男「あの、友だちの」
男「やっぱなんでもない」
少女「ははは、私もそれ考えてたんだけどさ」
男「……うん」
少女「やっぱちょっと、勇気、いるよね」
男「ああ」
60 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 20:59:11 ID:vXX/6iJ2
少女「でも、見ないと、きっと後悔する」
男「そうだな」
少女「だから私、見るよ」
男「偉いな、君は」
少女「え?」
男「おれがビビって足踏みしてる間に、どんどん先に行くんだもんな」
少女「でも、スクリーンを最初に見たのは、あんたの方だったでしょ」
61 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 21:09:17 ID:vXX/6iJ2
男「そうだっけ」
少女「あんたも、友だちの姿を見るのを怖がってる」
男「……ああ」
少女「私も、怖いよ」
男「……だろうね」
少女「だからさ、せーので見ようよ」
男「……はは」
少女「なによ」
男「いいアイデアだ、と思ってね」
少女「……でしょ」
62 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 21:17:15 ID:vXX/6iJ2
……
男「よし、じゃあ見よっか」
少女「うん」
男「背中合わせで座ろうか」
少女「……うん」
男「ふーっ」
少女「ふーっ」
男「よし、いくぞ」
少女「や、や、や、ちょっと待って!!」
63 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 21:22:42 ID:vXX/6iJ2
男「なんだよ」
少女「心の準備が」
男「ったく、さっきまでの威勢はどこ行った」
少女「大丈夫、大丈夫」
男「そうそう、大丈夫」
少女「うん」
男「どうせさ、おれらは死んでるんだから、客観的に見てようぜ」
少女「そんな自信ないけど……」
男「いいから、ほら、いくぞ」
少女「うん」
64 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 21:29:13 ID:vXX/6iJ2
ヴォーン
男「あれ、もう、お通夜の時間?」
ざわざわ
男「クラスのやつら……先生……叔父さん……叔母さん……」
『あんなにいい子が……』
『このたびは誠に……』
『お悔やみ申し上げます……』
男「みんな……」
ぐすっ……えぐっ……ひっく……
男「みんな……おれのために……」
65 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 21:34:45 ID:vXX/6iJ2
ヴォーン
少女「これが……お通夜?」
ざわざわ
少女「みんな……先生……」
『このたびは……』
『あのトラック……許せない……』
『神も仏も……ありませんね……』
少女「パパ、ママ……」
『本日は、あの子のために、ありがとうございます』
少女「ほんと、こんなに集まってもらえて、私、嬉しいよ」
66 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 21:41:18 ID:vXX/6iJ2
ヴォーン
男「みんな……泣いて……」
男「おれなんかのために……」
『あいつは、真面目で、いつも一生懸命勉強して……』
男「先生……」
『いつも、おれ、相談聞いてもらってました』
『今でも、あいつには感謝しています』
『……もっと……伝えたかったっ……』
男「くぅっ……」ポロポロ
67 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 21:49:00 ID:vXX/6iJ2
ヴォーン
ぐすっ……ひっく……うぇ……うぇ……
『うぇえ……悲しいよ……悲しいよ……』
『もっと一緒に……遊びたかったよっ……』
少女「私も……だよ……」ポロポロ
『いつもみんなのことを考えて動ける、優しい子でした……』
『私たちが喧嘩したときも、間を取り持ってくれて……』
『なんで……死んじゃったの……うぅっ』
少女「御免ね……御免ね……」ポロポロ
68 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 21:53:13 ID:vXX/6iJ2
ヴォーン
男「お開きか……みんな帰っちゃったな……」
男「ていうか、おれの遺影、もっと男前のやつなかったのかよ……ふふっ」
男「あ……」
女『……』グスッ
男「残ってくれてたんだ……」
女『……』グスッ
男「でも、どうして……」
69 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 22:02:23 ID:vXX/6iJ2
男「……」
女『御免ね……御免』グスッ
男「なんで、謝ってるの」
女『私、酷いこと、したね』グスッ
男「なんで? 君はなにも悪くないよ」
男「おれが勝手に嫉妬して、勝手に死んだんだから」
女『なんで、あんなことしたんだろうね、私』グスッ
男「なに、言ってるの?」
70 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 22:09:57 ID:vXX/6iJ2
ヴォーン
少女「お通夜って短いんだね……」
少女「もうみんな、いないのかな……」
少女「あ……」
少年『……』ポロポロ
少女「残ってくれてたんだ……」
少年『……』ポロポロ
少女「でも、泣いてる……」
71 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/06(木) 22:17:05 ID:vXX/6iJ2
少年『御免なさい、御免なさい……』ポロポロ
少女「あんたは悪くないよ、あんたが無事だったら、それでいいの」
少年『僕、僕、トロくて、いつも、君に迷惑かけて……』ポロポロ
少女「そんな風に思ってない!!」
少女「ずっと大好きだった!!」
少年『僕の代わりに君が死んで……うぅっ』ポロポロ
少女「今でも大好きなんだから!!」
74 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/07(金) 23:17:00 ID:5pYQ.YMk
ヴォーン
女『私ね、君にね、焼きもち焼かせたかったんだぁ……』グスッ
男「え……?」
女『いつも、さ、曖昧な関係だったでしょ、私たち』グスッ
男「え? え?」
女『だから、私のこと、どう思ってるのかなって、それであんなこと、しちゃって』グスッ
男「……」
女『御免ね……御免なさい……』ポロポロ
男「そんな……」
女『許してなんて……もらえないの……わかってる……』ポロポロ
男「そんなこと……」
75 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/07(金) 23:23:32 ID:5pYQ.YMk
男「はは……死んでから気づくなんて……遅かったな……おれ」
男「ほんと、馬鹿だなあ……」
女『御免ね……御免ね……』ポロポロ
男「謝る必要、ないよ」
男「おれが馬鹿だった、ただそれだけだ」
女『……』ポロポロ
男「ハンカチ、御免ね」
76 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/07(金) 23:29:27 ID:5pYQ.YMk
ヴォーン
少年『あのとき……僕……フラフラしてて……また君に迷惑をかけて……』ポロポロ
少女「そんな風に言わないで!!」
少年『僕が死ねば……』ポロポロ
少女「そんな風に言わないでったら!!」
少女「もう十分だから!! 自分を傷つけないで!!」
少年『御免ね……ほんと……ダメだ……僕……』ポロポロ
少女「もう!!」
77 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/07(金) 23:37:28 ID:5pYQ.YMk
少年『もう一度会って……君に……謝りたい……』ポロポロ
少女「ぅうっ……」
少年『御免ね……御免ね……』ポロポロ
少女「わ……私だって……もう一度……会いたいよ……」
少年『……』
少女「会いたい!! 会いたい!!」
少年『……』
少女「まだ!! まだ死にたくないよぉ!!」ポロ
少女「死にたくない!! もっと生きて……生きていたかった!!」ポロポロ
78 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/07(金) 23:44:13 ID:5pYQ.YMk
少女「うああ……ああああん」ポロポロ
少女「死にたくないよぉ……なんで……なんで……」ポロポロ
少女「もっと、お喋りして、一緒に、帰って」ポロポロ
少女「ぐす……ひっく……」ポロポロ
少女「楽しい毎日を……もっと……もっと……」ポロポロ
少女「過ごしたかったのに!!」ポロポロ
少女「もっと続くと思ってたのに!!」ポロポロ
少女「ぅあぁああああん……」ポロポロ
男「……」
79 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/07(金) 23:48:35 ID:5pYQ.YMk
少女「……」グス
男「ねえ」
少女「……なに?」グス
男「おれが偉そうに言うことじゃないかもしれないけれど」
少女「……」
男「おれたちはさ、やっぱさ、死んだんだよ」
少女「……わかってるわよ、そんなこと」
男「おれもさ、わかるよ、生きてたいって気持ち」
少女「……うん」
80 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/07(金) 23:53:48 ID:5pYQ.YMk
男「だけど、その、なんていうか、おれたちは死んだけど、存在が消えるわけじゃない」
少女「?」
男「現にさ、あの男の子は君のこと、心に刻んでくれてるじゃないか」
少女「心に?」
男「そう」
男「あの子が君のこと、忘れると思う?」
少女「……ううん」
男「だろ?」
81 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/07(金) 23:59:00 ID:5pYQ.YMk
男「思い出に残ることができるじゃないか」
少女「……」
男「おれたちは死んだけどさ、みんなの記憶の中で、ずっと二人は生きていけるんだよ」
少女「記憶の中で……ずっと二人は……生きていける……」
男「そう」
男「君のパパも、ママも、お姉ちゃんもさ、君のこと、忘れないよ、きっと」
少女「……うん」
少女「あんたも……家族と、あの子の心の中で……」
男「ああ、生きていけるんだ」
82 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/08(土) 00:06:55 ID:Fvyr7wBc
少女「ありがと」
男「ん?」
少女「なんか、すっきりしちゃった」
男「ははは」
少女「泣いてすっきりするって、こういう感じなのね」
男「そうそう」
少女「一つ勉強になりました」
少女「さすが、私より長く生きてるだけあるのね」
男「そんなに変わんねえよ」
83 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/08(土) 00:12:57 ID:Fvyr7wBc
少女「ねえ……こっちからさ、現世に言いたいことは伝わるかな」
男「ん……どうだろう」
少女「あいつに、思いっきり叫びたいんだけど、色々と」
男「ああ、おれもだ」
少女「叫んだらさ、ちょっとは伝わるかな」
男「やってみようか」
少女「うん」
ガチャリ
天使「……?」
84 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/08(土) 00:18:36 ID:Fvyr7wBc
男「おれは!! お前が好きだった!!」
男「ていうか今でも好きだ!!」
少女「ねえ!! いっつも一緒にいてくれて、ありがとう!!」
少女「大好き!! すっごく好き!!」
男「気付かなくて馬鹿な真似して御免!! 嫉妬して御免!!」
男「あんな死に方して御免!! 目の前で死んじゃって御免!!」
少女「あんたは悪くないよ!! むしろあんたを庇って死んだこと、胸を張れる!!」
少女「今までありがとう!! ずっと忘れないから!!」
85 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/08(土) 00:26:20 ID:Fvyr7wBc
女『許してくれるまで……ずっと償い続けるから……』
男「気持ちだけで十分!! もうもらってる!! 十分!!」
少年『僕……君の分まで……一生懸命生きるから……』
少女「重いよ!! もっとリラックスして!! 気楽に元気に生きて!!」
女『御免ね……でも、ありがとう』
男「!!」
少年『ずっと忘れないから!!』
少女「!!」
86 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/08(土) 00:32:55 ID:Fvyr7wBc
男「ありがとう……か」
男「そうだよ、『御免』なんかより、そっちの方がいい」
少女「忘れないで……いてくれるの……?」
少女「嬉しい……嬉しい!!」
天使「……」
88 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/08(土) 00:38:48 ID:Fvyr7wBc
男「伝わったかな、気持ち」
少女「どうかなあ」
男「まあ、伝わんなくても、すっきりしたからいいか」
少女「そう!! 終わりよければすべてよし!!」
天使「……」
男「うおっと!! いつの間に」
少女「や!! びっくりした」
天使「ええ、ええ、邪魔してしまって申し訳ありません」
89 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/08(土) 00:45:37 ID:Fvyr7wBc
天使「御二方、スクリーンをご覧ください」
男「ん?」
少女「なあに?」
天使「私からの、ささやかな悪戯です」
男「……?」
少女「……?」
男「うお!!」
少女「や!!」
『遺影がウインクした!!』
90 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/08(土) 00:51:20 ID:Fvyr7wBc
天使「では、失礼します」
男「ははは、びっくりした」
少女「あんなん見たら、腰抜かすよね」
男「ははは、あいつ、ポカーンてしてる」
少女「あはは、あいつも目が点になってる」
男「でも、これで、伝わったかなあ」
少女「素敵なプレゼントだったね」
男「ああ」
91 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/08(土) 00:56:30 ID:Fvyr7wBc
天使「あ、そうそう、忘れていました、仕事」
男「仕事?」
天使「大天使様がお呼びです」
天使「今から御二方とも、審判が下ります」
少女「ああ、そっかそっか」
少女「天国行きか地獄行きか」
男「へいへい、そうだったな」
天使「まあ、そんなに身構えなくて大丈夫ですよ」
天使「地獄で拷問を受けたり、なんていうのはありませんから」
少女「そっか」ホッ
92 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/08(土) 01:06:27 ID:Fvyr7wBc
男「あのさ、生まれ変わりって、あるの?」
天使「ありますよ」
少女「じゃあ、またあいつと会える?」
天使「さあ、それは……貴方の頑張り次第ですね」
少女「ふうん?」
男「おっし、行こうか」
少女「うん」
93 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/08(土) 01:09:27 ID:Fvyr7wBc
男「じゃあな!!」
女『……じゃあね』
少女「またね!!」
少年『……また、会えるといいな』
★おしまい★