【オリジナルSS】女「降られちゃいました」

1 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/10/24(水) 22:55:46 ID:6nrbdjlI

この日は雨でした。

乾いた地面を潤すように、慈しむように、しっとりと降り注ぐ、優しい雨でした。

2 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/10/24(水) 22:56:39 ID:6nrbdjlI

真っ黒く染まったアスファルト。 匂い立つ夏の臭い。

路地に面した裏庭の縁側で、ぼんやりとそこから見える景色を眺めます。 枯れかけた紫陽花は、雨を喜んでいるようでした。

3 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/10/24(水) 22:57:27 ID:6nrbdjlI

人影が、ぽつりとひとつ。

雨に濡れた長い髪、か細く折れてしまいそうな身体。

『濡れちゃいますよ?』

振り返ったその人は、にっこりと笑って言いました。

女「えぇ、降られちゃいましたね」

4 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/10/24(水) 22:58:15 ID:6nrbdjlI

びしょ濡れが絵になる女性でした。

何というか、艶やかでした。

『大丈夫ですか?』

じぃ、と見つめてしまいました。 失礼な事をしたと思います。

でも、見つめてしまいました。

見惚れていた。 の方が正しいかもしれません。

目が離せないんです。

水煙に紛れて、次の瞬間消えてしまいそうな雰囲気でしたから。

5 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/10/24(水) 22:59:04 ID:6nrbdjlI

女「優しい人なんですか?」

『いえいえ、普通な人ですよ』

優しいなんてとんでもないです。 ごく一般的な、おじさん一歩手前の売れない物書きです。

女「降られたくは無かったんですが」

ぼんやりと空を見上げて雨の人は言いました。

6 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/10/24(水) 23:00:16 ID:6nrbdjlI

『傘を、持ち歩くべきだったみたいですね』

女「傘をさしても降られると、濡れてしまいます。 特に頬なんかはびしょびしょです」

髪をかきあげると形の良い眉と額が見えました。

『雨宿り、します? 暖かいお茶くらいなら多分出せますよ?』

女「それでは汚れてしまいますよ?」

『ボロ屋ですが、拭く物くらいは有りますよ』

女「それでは、失礼して」

垣根の切れ目から裏庭に入り、縁側の前に立つ彼女はうっすらと笑みを浮かべていました。

疲れているような、諦めたような、そんな笑みでした。

7 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/10/24(水) 23:02:02 ID:6nrbdjlI

女「すみません」

『お気になさらず』

タオルを渡します。 薄い緑色の生地が、彼女の水分をどんどん吸っていきます。

小さいタオルでしたから、拭いきれるかどうか少し不安でしたが無事にその役目を果たし、用意していた洗面器に入れられました。

雨の匂いに混じり、彼女の匂いらしき甘い匂いが、洗面器の中で濡れそぼったタオルから漂っています。

8 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/10/24(水) 23:03:01 ID:6nrbdjlI

女「お邪魔しますね?」

『なんのお構いも出来ませんが』

来客用に少しだけ上等なお茶を用意します。

戸棚を開けて『はて、お茶請けは何にようか』なんて考えていると縁側からなにやら私を呼ぶ声がしました。

9 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/10/24(水) 23:03:57 ID:6nrbdjlI

女「お構いして下さるようですが、良いのですか?」

『何がですか?』

女「下心がお有りだとしても、今の私には応えられませんよ?」

そんなつもりは無いと思ってたんですが、こう言われてしまうと、少しだけ複雑な心境になります。

彼女は美人ですから。

そりゃあ、少しの期待は有りますよ。 僕は聖人君子、ではなく、成人男子、ですし。

『気を使わせたみたいですね。 大丈夫ですよ』

少しの期待に比例して、少し残念なだけですし。

えぇ、少しだけです。 神様に誓って。

10 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/10/24(水) 23:08:44 ID:6nrbdjlI

女「雨、止みましたね」

お茶をのんで、カステラを食べて、少しだけお話をして。

彼女をまた、寂しそうな笑みを浮かべて帰って行きます。

女「ありがとうございました」

『いえいえ』

11 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/10/24(水) 23:10:10 ID:6nrbdjlI
女「あなたはいい人ですね。 降られた私に優しくして下さって」

『いつでもきて下さい』

女「そんな事言って、本気にしますよ?」

『んー、今度は僕に雨が降って来ちゃいそうだ』

女「あら、どーでしょうね。 貴方次第です」

『僕となら傘は不要ですが』

女「検討しておきます」

『降られたくはないので、照る照る坊主を作るのが日課になりそうです』

女「ふふ、傷心につけ込むなんてずるいですよ?」

『そうでもしないと晴れそうに無いので』

女「またきますね」

『お待ちしてます』

12 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/10/24(水) 23:10:35 ID:6nrbdjlI

おしまい。

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